広島地方裁判所 平成5年(ワ)477号 判決 1999年1月28日
広島市<以下省略>
原告
X1
広島市<以下省略>
原告
X2
広島市<以下省略>
原告
X3
広島市<以下省略>
原告
X4
徳島県板野郡<以下省略>
原告
X5
右原告ら訴訟代理人弁護士
別紙代理人目録記載のとおり
東京都中央区<以下省略>
被告
野村證券株式会社
右代表者代表取締役
A
右訴訟代理人弁護士
鶴敍
主文
一 被告は、原告X1に対し、一四六七万四六一八円及びこれに対する平成五年六月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告は、原告X2に対し、五七〇万七七六四円及びこれに対する平成五年六月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被告は、原告X3に対し、二六九万九七七四円及びこれに対する平成五年六月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 被告は、原告X4に対し、二三三万四四六〇円及びこれに対する平成五年六月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
五 被告は、原告X5に対し、二五四万四八〇〇円及びこれに対する平成五年六月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
六 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
七 訴訟費用はこれを二分し、その一を被告の負担とし、その余を原告らの負担とする。
八 この判決は、第一ないし第五項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一 被告は、原告X1(以下「原告X1」という。)に対し、三三六九万七五四五円及びこれに対する平成五年六月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告は、原告X2(以下「原告X2」という。)に対し、一一四三万四五二八円及びこれに対する平成五年六月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被告は、原告X3(以下「原告X3」という。)に対し、七〇〇万一七〇〇円及びこれに対する平成五年六月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 被告は、原告X4(以下「原告X4」という。)に対し、三七九万六九三五円及びこれに対する平成五年六月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
五 被告は、原告X5(以下「原告X5」という。)に対し、五〇九万一六〇〇円及びこれに対する平成五年六月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、被告の営業社員の勧誘を受けて外貨建てワラントを購入した顧客である原告らが、外貨建てワラントの取引に適合性がなかったことや勧誘における説明義務違反などの違法行為があったとして、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償請求をした事案である。
一 前提となる事実(当事者間に争いがない事実並びに証拠(各項目の冒頭に掲示した証拠)及び弁論の全趣旨により認定できる事実)
1 総論
(一) 被告は、有価証券等の売買及び売買等の委託の媒介、取次ぎなどを業とする会社であり、広島市内に広島支店を設け、右支店を通じて原告らとの間で取引を行ったものである。
(二) 昭和五六年の商法改正によって発行が認められた新株引受権付社債の別名をワラント債と呼び、このワラント債に表章される新株引受権をワラントと言う。ワラント債は、社債と新株引受権が一枚の証券となった形で発行されること(非分離型)もあるし、分離可能な形で発行されること(分離型)もある。したがって、分離されれば新株引受権だけが独自の証券として流通することとなるが、この新株引受権証券のこともワラントと呼ばれている。
すなわち、ワラントとは、ワラント債の発行時にあらかじめ決められた期間(権利行使期間)内に、あらかじめ決められた価格(権利行使価格)で、所定の機関を通じてワラント債発行企業に払い込み、あらかじめ決められた数の新株を取得できる権利である。
ワラント債を発行通貨別に分類すれば、国内で発行される円建てのものと外国で外貨建てで発行されるものがある。
過去、日本国内で発行されたワラント債は非分離型に限られた時期もあったが、昭和六〇年一一月一日、国内でも分離型のワラント債の発行が解禁され、また、昭和六一年一月一日からは、外国で発行された外貨建てワラント債の分離型ワラントの国内持込みも解禁された。
外貨建てワラントは、日本国内の証券取引所に上場されていないため、日本国内でこれを取引するには、外国の証券取引所上場のものを委託取引で注文する(外国取引)か、国内の証券会社と店頭で相対取引を行う(国内店頭取引)ことになるが、実際上は、ほとんどが店頭での相対取引でなされている。
外貨建てワラントの気配値は、平成元年五月一日から日本証券業協会によって特定の銘柄について発表されるようになり、平成二年九月二五日からは日本相互証券で行われる外貨建てワラントの業者間取引の気配値一覧が日本経済新聞その他の専門紙に掲載されるようになった(もっとも全国紙には掲載されていない。)。また、右日本相互証券では、権利行使期間の残存期間が一年未満となったワラントには値付けを行っていない。
2 原告X1について(甲五六、五八、乙一の一、一〇の一・二、一三の一ないし八、一四の一ないし九、原告X1本人)
(一) 原告X1は、昭和二五年に広島県内の高校の農業科を卒業し、父親の営んでいた材木商を手伝うなどしていたが、昭和四二年に訴外a建設木材株式会社(その後「a建設株式会社」に商号変更、以下「a建設」という。)を創業し、代表取締役に就任し、建築業を営んでいた。右会社の年商は平成二年当時、二億円程度であった。なお、原告X1は、現在は同社の代表取締役を退き、会長を務めている。また、原告X1は不動産を所有しており、その中には貸し倉庫及びその敷地も含まれている。
(二) 原告X1は、昭和四四、四五年ころから和光証券を通じて株式の取引をし、平成三、四年ころからはウツミ屋証券を通じて同じく株式の取引をしていたが、平成二年ころ、知人から被告を紹介され、被告の営業社員である訴外B(以下「訴外B」という。)が担当となり、被告を通じての取引を始めた。
原告X1及びa建設は、平成二年一〇月二四日、被告を通じて、新規公開株である研創の株式各一〇〇〇株をそれぞれ二八〇万九〇〇〇円で買い付け、またa建設は平成三年四月から六月にかけて三度、七〇〇万円ないし九〇〇万円程度の株式を買い付けた。なお、右三度の取引のうち二度、二銘柄については短期間で売却し、合計一二〇万円程度の利益を得た。
(三) 訴外Bは、平成三年四月二二日、原告X1に第二回日新製鋼外貨建てワラント(以下「日新製鋼ワラント」という。)の購入を勧め、原告X1は、これに応じて同日、二〇〇ワラント(二口)を代金三三三六万円で買い付けた。右買付代金については、原告X1が、取引のあった●●●農業協同組合から二八〇〇万円を借り入れるなどして調達した。なお、右日新製鋼ワラントは右買付け後の同月二五日ころ発行されたものであり、権利行使期限は平成八年四月一八日とされていた。
(四) 原告X1が買い付けた日新製鋼ワラントは、平成三年五月三一日の時点で二三四万三七五〇円値下がりし、同年八月三〇日の時点では二五一三万一〇〇〇円値下がりしており、その後も概ね値下がりを続け、結局、権利行使や売却がなされないまま権利行使期限を経過した。
3 原告X2について(甲七二、乙二の一、四六、原告X2本人)
(一) 原告X2は、昭和三五年に電気関係部品(配電盤、制御盤等)を製造する会社である訴外○○電装株式会社(以下「○○電装」という。)を設立し、代表取締役に就任し、以後、現在まで代表取締役として○○電装を経営している。
(二) 原告X2は、平成元年一月に被告を通じて東京電力株式会社の転換社債の買付け(取引金額は一〇〇万円)をし、同年五月には右転換社債の売却金で外国債券を購入し、それぞれ多額ではないが利益を得た。
平成元年六月以降、被告の原告X2の担当者は訴外C(以下「訴外C」という。)であったが、原告X2及び○○電装は、平成二年一月三〇日、訴外Cの勧めで、青山商事株式会社の公募株を各一〇〇〇株(買付代金各一三三一万七〇〇〇円)を買い付け、代金は○○電装及び原告X2の取引銀行であった●●●総合銀行からの借入金で賄った。右青山商事株は、○○電装のものは同年五月二五日に、原告X2のものは同年六月一日にそれぞれ売却された。
原告X2は、同年六月一日、右青山商事株の売却金で第三回ニッポンペイント(日本ペイント)外貨建てワラント(以下「日本ペイントワラント」という。)五五ワラントを一〇四八万四三七五円で購入し、同年七月一〇日に八七二万七一九七円で売却し、さらに同日、右売却金で第三回ベストデンキ(ベスト電器)外貨建てワラント(以下「ベスト電器ワラント」という。)四〇ワラントを八六三万八三五〇円で購入した。なお、ベスト電器ワラントの権利行使期限は平成五年六月二九日とされていた。
(三) 原告X2が買い付けたベスト電器ワラントは、その後概ね値下がりをし、権利行使期限を経過した。
4 原告X3について(甲五九、乙三の一、一五の一ないし四、二〇の一ないし八、D証人、原告X3本人)
(一) 原告X3は、昭和一七年に○○大学専門部商科を卒業し、その後、食料関係の仕事に従事した後、昭和三三年ころ、叔父が創業した○○製薬株式会社に勤務するようになり、以後、一貫して営業関係の仕事に従事し、最終的には取締役営業本部長を務めた。原告X3は、昭和六一年二月に○○製薬株式会社を定年退職して東京から広島に帰り、その後、昭和六三年始めころまで○○製薬株式会社の子会社である○○興農株式会社の専務を務めた。
また、原告X3の妻Eは○○高等女学校を卒業し、その後原告X3と婚姻したが、仕事に従事した経験はなく、専業主婦である。
(二) 原告X3は、昭和五一年二月、大阪から広島への転居に伴い被告の広島支店に保護預り口座を移転し、被告広島支店との取引を始め、昭和五七年八月に東京への転居に伴い、被告の新宿駅西口支店で株式の取引を行うようになった。そして原告X3は、昭和六一年二月に広島に帰住し、同年四月からは被告広島支店と再び取引をするようになった。被告の担当者は当初は内記規正であったが、昭和六三年七月からは訴外D(以下「訴外D」という。)となった。
(三) 原告X3は、平成元年一一月三〇日、サッポロビールの転換社債を一〇九三万余円で買い付けたが、その後値下がりし、平成二年一〇月二六日、九〇〇万余円で売り付け、四〇〇万円余りの損失を出した。
また、原告X3は、平成二年一〇月二五日、訴外Dの勧誘で第三回サッポロビール外貨建てワラント(以下「サッポロビールワラント」という。)一一〇ワラントを買い付けることを決め、週末明けの同月二九日、六三六万五七〇〇円で買い付けた。右ワラントの権利行使期限は平成五年六月八日とされていた。
(四) 原告X3が買い付けたサッポロビールワラントは、平成三年五月三一日の時点で既に三九〇万一六三一円値下がりし、その後も値下がりを続け、権利行使期限を経過した。
5 原告X4について(甲七一、乙四の一・二、三八、F証人、原告X4本人)
(一) 原告X4は、昭和三八年に高校を卒業後、●●●警の警察官になり、昭和四五年に退職した後、山口県岩国市で●●●新聞の販売店の経営を始めた。そして、昭和五三年に広島市<以下省略>の新聞販売店を経営するようになり、現在に至っている。
(二) 原告X4は、昭和五八年一二月から被告との取引を始め、最初は中期国債ファンドの取引であったが、次第に金地金や株式、転換社債、外国の投資信託などの取引をするようになった。なお、被告の担当は、昭和六三年一一月以降はF(以下「訴外F」という。)であった。
(三) 原告X4は、平成三年二月四日、第三回フジクラ(藤倉電線)外貨建てワラント(以下「フジクラワラント」という。)五〇ワラントを二八一万一三七五円で買い付け、さらに同月一四日、第一回神鋼電機外貨建てワラント二〇ワラントを三六五万八二〇〇円で買い付けた。右神鋼電機ワラントは、同月二〇日に売却され、四三万七〇七八円の利益があった。また、同月二六日には第二回住友重機械工業外貨建てワラント(以下「住友重機ワラント」という。)二ワラントを三二万七八一〇円で買い付けた。前記フジクラワラントは、同月二七日に売却され、二万〇〇八六円の損失を生じた。原告X4は、その後、同年三月一一日に再度、フジクラワラント五〇ワラントを三一二万四一二五円で買い付けた。
右フジクラワラントの権利行使期限は平成五年二月八日であり、住友重機ワラントの権利行使期限は平成六年九月二〇日とされていた。
(四) フジクラワラント及び住友重機ワラントについては、その後、権利行使や売却がされないまま権利行使期限を経過した。
6 原告X5について(甲六〇ないし六二、乙五の一、二四の一、原告X5本人)
(一) 原告X5は、昭和三〇年に徳島県内の工業高校土木科を卒業し、直ちにb建設株式会社に入社し、四国、岡山等を転勤し、主に技術面の仕事に携わっていたが、平成二年九月から翌平成三年一月上中旬ころまでは松江出張所に勤務し、松江に居住していた。
(二) 原告X5は、昭和四七、四八年ころから証券取引を始めたが、父親から受け継いだ電力株の保有や勤務先であるb建設株の持ち株が主なものであり、頻繁な売買はしていなかった。
原告X5は、平成元年七月一三日、所有していた徳島県内の山林三筆を徳島県に一七三七万〇二〇〇円で売却し、同月二六日に代金の支払いを受け、同年八月四日、その代金の一部でソニー株(四〇三万余円)、東亜合成化学転換社債(二二一万余円)及び株式型エース(二〇〇万円)を買い付け、その後も株式や転換社債の取引をした。
原告X5は、平成二年一〇月八日、関西電力の転換社債を四一三万余円で買い付け、同月一六日に売り付けて約三三万円の利益を得たが、同月二六日ころ、訴外D(昭和六二年一一月から原告X5の担当をしていた。)の勧誘によりサッポロビール外貨建てワラント、八〇ワラントを買い付けることとし、週末明けの同月二九日、四六二万九六〇〇円で買い付けた。右ワラントの権利行使期限は平成五年六月八日とされていた。
(三) 原告X5が買い付けたサッポロビールワラントは、平成三年五月三一日の時点で既に一六九万四八〇〇円値下がりし、その後も値下がりを続け、権利行使期限を経過した。
二 原告らの主張
1 ワラント取引の問題点
(一) ワラント債は、新株引受権と社債が一体であるうちは、たとえワラントが無価値になっても、投資者は社債元金が償還されるし、低いながらも利息も受け取ることができ、この点さえ覚悟すればリスクはほとんどないと言える。しかし、ワラントが分離されて独自に取引されると、プレミアムという実体のない価値が付加されて価格的に膨張し、かつ、その価格の変動は株価より大きく、株価の変動率の何倍もの変動が生じるものであり、極めてハイリスクな商品となる(また、外貨建てワラントの価格については、株価のほか為替相場にも連動する。)。
投資家としては、ワラントに投資した金員の全額を失う危険性があり、投資に伴う危険の回避(リスクヘッジ)をすることが困難な一般大衆投資家にとっては、ワラント取引に投資することによって、投資した全額を失う危険性がある。また、ワラントに関する情報が不足している一般大衆投資家にとっては、ワラントの取引で利益を上げることは至難の技である。
(二) また、特に、外貨建てワラントは、証券取引所で取引されず、ほとんどは証券会社と顧客との相対取引となっており、価格の形成過程が極めて不透明で、価格決定の不明朗さなどを招来しているほか、顧客に原券が交付されず、証券会社発行の預り証が交付されるだけであり、預り証にはワラントの権利内容が明記されていないことがほとんどであるため、金融商品としての明確さに欠けており、そのため、外貨建てワラントを買い付けた顧客は、実質的には買入先の証券会社に引き取ってもらうしか投下資本回収の道はないことになる。
2 本件におけるワラント取引の違法性(原告らについて)
(一) 説明義務違反
証券会社は、顧客との取引を行うにあたり、当該商品の内容を充分に説明し、顧客がこれを理解したことを確認する義務を負うものであり、自己責任の原則が妥当するためには不可欠である。また、とりわけ、証券会社が自ら勧誘を行った場合や外貨建てワラントの勧誘の場合には、これらの説明、確認義務は極めて高度な内容を有するものとなる。
被告は、外貨建てワラント取引勧誘にあたり、ワラントの性質や価格変動が激しいこと、株価が低迷すれば実質的に価値を失うこともあり、権利行使期間を経過すれば無価値になること、外貨建てワラントは相対取引であることなど、外貨建てワラント取引に必要な重要な事項を説明する義務を負うものである。
(二) 断定的判断の提供の禁止についての義務違反
証券会社が顧客に株価変動に関する断定的判断を提供することは、証券取引法において禁止されているが、実際のワラント取引においては、証券会社は断定的判断を提供している。
(三) 虚偽表示・誤導表示の禁止についての義務違反
証券会社が勧誘に際して虚偽の情報を提供したり、重要な事実をあえて告知しない等、誤解を生じさせる情報を提供し、またはしないことは証券取引法が禁止しているが、実際のワラント取引においては、証券会社担当者は、ワラントが極めてリスクの高い投資商品で、権利行使期間が過ぎると無価値になるということを知りながら、虚偽もしくは甚だ根拠に乏しい情報を提供している。
(四) 適合性原則違反
証券会社は、顧客に対して忠実義務・善管義務を負っており、勧誘にあたっては顧客の事情を慎重に配慮した上で、その顧客に適合した取引への勧誘のみをすべき義務を負っている。
外貨建てワラントには前記のような多大な問題点があることなどから、一般投資家がその取引に適合性を持たないものである。また、外貨建てワラントは極めてリスクが高いものであり、プロの投資家が購入する場合でも、投資による危険を分散させる必要がある商品であるから、回数や金額において、顧客の投資可能資金額に比して過当な購入がなされている場合には、資力面からの適合性原則違反がある。
3 自己責任の原則について
現代社会における自己責任の原則は、投資取引に伴うリスクの範囲を判断し得る地位にある投資家が、その判断に基づいて行った取引の責任を負担するというものであり、証券取引において証券会社が投資家に対する不当勧誘を行った場合には証券会社は自己責任の原則を主張して取引の結果を投資家に転嫁することは許されない。また、自己責任の原則の前提として、証券市場に参加する投資家が、適切な情報が与えられれば自ら投資判断をなし得る者であること及び投資家に対して正しい内容を持ち、かつ、充分な質と量を備えた情報が与えられることが必要である。そして、前記の適合性の原則や不当勧誘に対する規制がこれらの前提条件を確保するものであり、これらの違反がある場合には自己責任の原則はその前提条件を欠き、妥当しない。
4 被告は、違法行為を行い、原告らの権利を違法に侵害したものであり、民法七〇九条に基づく不法行為責任を負う。また、被告は、証券取引の事業のために原告らにワラント取引を勧誘した各営業社員を使用したものであり、右営業社員が事業の執行についてした違法な行為により原告らに損害を与えたものであるから、民法七一五条に基づく責任を負う。
5 原告X1について
(一) 日新製鋼ワラントの取引については、次のような違法性がある。
(1) 適合性の原則違反
原告X1はワラント取引の経験は皆無であり、また、本件ワラント取引までの被告との取引額はa建設名義のものを含めても五〇〇万円程度であったにもかかわらず、三三三六万円に上る日新製鋼ワラントの取引を勧誘し、かつ、訴外Bはそれが借入金によるものであることを知っていたものであるから、適合性の原則に違反している。
(2) 目論見書交付義務違反
日新製鋼ワラントは、原告X1が買い付けた時点では発行前のものであったから、被告は、証券取引法一五条に基づき、予めまたは取引と同時に目論見書を交付する義務があったにもかかわらず、これを交付していない。目論見書の交付がないことにより、原告X1は、当該ワラント投資に必要な情報が入手不可能な状態にあった。また、訴外Bは、原告X1に対し、日新製鋼ワラントが発行前のものであることすら説明していなかった。
(3) 説明義務違反
訴外Bは、原告X1に日新製鋼ワラントの買付けを勧誘する際、ワラントの商品構造や危険性については全く説明しておらず、また、日新製鋼ワラントの価格のうちプレミアム部分を除いた理論価値(パリティ)を明らかにしなかった。
(4) 断定的判断の提供
訴外Bは、原告X1に対して日新製鋼ワラントの購入を勧誘した際、一週間か一〇日で確実に儲かると断定的な表現で勧誘した。
(5) 事後の時価等情報開示義務違反
原告X1が日新製鋼ワラントを購入した後、訴外Bからワラント価格に関する適時の情報提供がなされなかった。被告から原告X1に送付された時価評価の通知は三か月に一度なされたものであり、値動きの大きいワラントに関する情報提供としては不充分である。
(二) 原告X1は、日新製鋼ワラントの権利行使期限が経過したことにより、出捐した三三三六万一五四五円全額を失い、同額の損害を受けた。
また、原告X1は、事案の性質上、本件損害賠償請求訴訟を提起するに際して弁護士に委任せざるを得なかったものであり、被告による不法行為に基づく損害としての弁護士費用としては三三三万六〇〇〇円が相当である。
6 原告X2について
(一) 日本ペイントワラント及びベスト電器ワラントの取引については、次のような違法性がある。
(1) 適合性の原則違反
原告X2はワラント取引の経験がなかっただけでなく、証券取引自体、数回の経験しかない素人投資家であったこと、ワラント購入資金全額が借入金で賄われており、それを訴外Cも知っていたこと、原告X2は会社の代表取締役ではあったが、右会社は同族会社であることなどからすれば、同原告に対するワラント取引の勧誘は適合性の原則に違反するというべきである。
(2) 説明義務違反
原告X2に対する勧誘は電話でなされており、ワラントについての説明も短時間で、株価と連動することだけしか説明されていないこと、少なくともワラント取引の時点では取引説明書が交付されておらず、説明書に基づく説明もなされていないことなどからすれば、訴外Cによるワラントの勧誘は説明義務に違反するものである。
(3) 断定的判断の提供
訴外Cは、原告X2に対し、ワラントの有利性を強調してワラント購入を勧誘したものであり、断定的判断の提供による勧誘がなされた。
(4) 事後の時価等情報開示義務違反
原告X2が日本ペイントワラント及びベスト電器ワラントを購入した後、訴外Cからワラント価格に関する適時の情報提供がなされなかった。被告から原告X2に送付された時価評価の通知は三か月に一度なされたものであり、値動きの大きいワラントに関する情報提供としては不充分である。
(二) 原告X2は、日本ペイントワラントを購入価格より低額で売却せざるを得なかったことによりその差額一七五万七一七八円の損失を受け、また、ベスト電器ワラントの権利行使期限が経過したことにより、出捐した八六三万八三五〇円全額を失い、合計一〇三九万五五二八円の損害を受けた。
また、原告X2は、事案の性質上、本件損害賠償請求訴訟を提起するに際して弁護士に委任せざるを得なかったものであり、被告による不法行為に基づく損害としての弁護士費用としては一〇三万九〇〇〇円が相当である。
7 原告X3について
(一) サッポロビールワラントの取引については、次のような違法性がある。
(1) 適合性の原則違反
原告X3は証券取引の期間は長いが、形式的、名目的なものであり、実際には妻がこれを行なっており、またワラント取引の経験は実質的にはなかったというべきである。ワラントは周知性がなく、かつ、商品構造が複雑であり、極めてリスクの高い商品であり、個人投資家に対して勧めるべき商品ではない。被告が原告X3及びその妻に対してしたサッポロビールワラントの買付けの勧誘は適合性の原則に違反するものである。
(2) 説明義務違反
訴外Dは、原告X3に対し、ワラントの危険性について充分な説明をしないまま勧誘したものである。また、ある程度の説明がなされたとしても、ワラントについての知識を有していない原告X3に対し、ワラントの性質や価格の変動の仕組み、株式と比較して価格の変動の予測が極めて困難であることなどを充分に説明しておらず、説明義務に違反している。
(3) 断定的判断の提供
訴外Dは、原告X3に対し、利益を過度に強調し、断定的な判断を提供して勧誘した。
(4) 事後の時価等情報開示義務違反
原告X3がサッポロビールワラントを購入した後、訴外Dからワラント価格に関する適時の情報提供がなされなかった。被告から原告X3に送付された時価評価の通知は三か月に一度なされたものであり、値動きの大きいワラントに関する情報提供としては不充分である。
(二) 原告X3は、サッポロビールワラントの権利行使期限が経過したことにより出捐した六三六万五七〇〇円全額を失い、同額の損害を受けた。
また、原告X3は、事案の性質上、本件損害賠償請求訴訟を提起するに際して弁護士に委任せざるを得なかったものであり、被告による不法行為に基づく損害としての弁護士費用としては六三万六〇〇〇円が相当である。
8 原告X4について
(一) フジクラワラント及び住友重機ワラントの取引については、次のような違法性がある。
(1) 適合性の原則違反
原告X4は貯蓄性向の強い投資者であり、ワラント取引の経験が皆無であったばかりでなく、ワラント取引までの証券取引の取引量や回数は少なく、また、経済情勢に詳しいものでもなかった。これらの事情によれば、原告X4に対するワラント取引の勧誘は適合性の原則に違反するというべきである。
(2) 説明義務違反
原告X4に対する勧誘はすべて電話でなされており、また、当初のワラント取引の時点では取引説明書も交付されていないだけでなく、訴外Fはワラントについて具体的な説明を何ら行っておらず、説明義務違反があったことは明らかである。
(3) 断定的判断の提供
訴外Fは、原告X4に対し、「絶対に儲かる商品がある。」「損はさせない。」「瞬間的に上がる。」などの文言でワラント購入を勧誘しており、断定的判断の提供による勧誘がなされた。
(4) 事後の時価等情報開示義務違反
原告X4がフジクラワラント及び住友重機ワラントを購入した後、訴外Fからワラント価格に関する適時の情報提供がなされなかった。被告から原告X4に送付された時価評価の通知は三か月に一度なされたものであり、値動きの大きいワラントに関する情報提供としては不充分である。
(二) 原告X4は、フジクラワラント及び住友重機ワラントの権利行使期限が経過したことにより、出捐した合計三四五万一九三五円全額を失い、同額の損害を受けた。
また、原告X4は、事案の性質上、本件損害賠償請求訴訟を提起するに際して弁護士に委任せざるを得なかったものであり、被告による不法行為に基づく損害としての弁護士費用としては三四万五〇〇〇円が相当である。
9 原告X5について
(一) サッポロビールワラントの取引については、次のような違法性がある。
(1) 適合性の原則違反
原告X5は、ワラント取引の経験が皆無であっただけでなく、訴外Dが担当するまでは特に株式等の売買をしておらず、取引回数が少なかったこと、当時、原告X5は松江に居住し、極めて多忙であり、被告広島支店との取引に際しては電話でしか連絡ができない状況であったことなどからすれば、原告X5に対するワラント取引の勧誘は適合性の原則に違反するというべきである。
(2) 説明義務違反
訴外Dは、多忙な原告X5に対し、電話でワラント取引の勧誘をしたものであり、ワラントの有利性のみ強調し、ワラントに関する充分な説明を行っていない。サッポロビールワラントは、当時、権利行使価格が株価を下回っており、また、権利行使期間が二年未満であったが、訴外Dは、これらについて説明をしておらず、事前に交付すべき取引説明書も交付していない。
(3) 断定的判断の提供
訴外Dは、原告X5に対し、ワラントの有利性を強調し、危険性の大きさを打ち消すような断定的な判断を提供して勧誘した。
(4) 事後の時価等情報開示義務違反
原告X5がサッポロビールワラントを購入した後、訴外Dからワラント価格に関する適時の情報提供がなされなかった。被告から原告X5に送付された時価評価の通知は三か月に一度なされたものであり、値動きの大きいワラントに関する情報提供としては不充分である。
(5) 仕切拒否
原告X5は、平成二年一二月ころ、訴外Dに対し、サッポロビールワラントの処分を依頼したが、訴外Dはこれを拒否しており、顧客の指示に従うべき義務に違反している。
(二) 原告X5は、サッポロビールワラントの権利行使期限が経過したことにより、出捐した四六二万九六〇〇円全額を失い、同額の損害を受けた。
また、原告X5は、事案の性質上、本件損害賠償請求訴訟を提起するに際して弁護士に委任せざるを得なかったものであり、被告による不法行為に基づく損害としての弁護士費用としては四六万二〇〇〇円が相当である。
三 被告の主張
1 自己責任の原則
証券取引は、顧客の自己の責任においてなされるべきであり、顧客は自己が利益を享受するとともに損失も自己が負担すべきである。自己の認識不足に基づく損害を証券会社に負わせることはできないというべきである。
2 投資家は、自己責任の原則により、自らの判断により自らの資金で投資をすべきものであり、投資対象の商品内容や特性、その他必要な事項の調査をすべき責任は投資家自身にある。証券会社は、投資家に対し、一般的に、投資商品の内容等について説明すべき債務はなく、実際になされている説明は投資家に対するサービスとしておこなっているものに過ぎない。
また、ワラントの仕組みは複雑なものではなく、その理解は容易であり、価格決定も不透明なものではなく、その価格も公表されている。また、権利行使期限も当初から予定されており、ワラントの保有者が予想しない時期に、突然、ワラントが無価値になるものでもない。
3 証券会社の投資勧誘に関する行為については証券取引法及びその関連法令などで規制されており、断定的判断の提供行為や虚偽表示、誤導表示の使用禁止などが規定されているが、これらの規定は行政監督法規であり、これらに違反することが直ちに私法上の不法行為を構成するものではない。
4 ワラント取引には、少額資金による投資の可能性、高収益性、リスク限定性、中長期的投資性などの大きな利点があり、ワラント及びその取引を適正に評価するためにはこれらの点も考慮されるべきである。
5 被告には原告らに対する遵守義務違反は存在しないが、仮に存在したとしても、原告らの損害は、ワラント購入後の株価の低迷、根本的には経済の低迷に起因するものであり、被告の行為との間に相当因果関係は存在しない。
6 原告X1について
(一) 原告X1は、過去に証券取引の経験があり、また、会社の経営者として充分な資力と判断力を有していた。
(二) 訴外Bは、原告X1に対し、ワラントの商品性や日新製鋼ワラントの動向について充分な説明をした。断定的な判断の提供は一切行なっていない。
(三) また、訴外Bは、原告X1が日新製鋼ワラントを買い付けた後もワラントに関する連絡を取り、アドバイスも行い、また、被告は、三か月おきにワラントの時価評価を通知している。
7 原告X2について
(一) 原告X2は、当時五一歳の会社経営者であったことからすれば、ワラント取引に適格性を欠いていたと言えないことは明らかである。
(二) 訴外Cは、原告X2に対し、勧誘に際してワラントの商品性などについて充分な説明をし、取引説明書も送付し、原告X2は、ワラントの商品性や危険性を充分認識していたものであり、説明義務違反の事実はない。また、断定的な判断の提供は一切行なっていない。
(三) また、訴外Cは、原告X2が日本ペイントワラント及びベスト電器ワラントを買い付けた後もワラントに関する連絡を取り、アドバイスも行い、また、被告は、三か月おきにワラントの時価評価を通知している。
8 原告X3について
(一) 原告X3は、○○製薬株式会社の創業者の甥であり、同社の営業本部長も務めた資産家であり、サッポロビールワラントの取引以前に既に外国株式投資信託を含めて広く有価証券の取引をしていた経験豊富な人物である。また、原告X3は、サッポロビールワラントの取引以前に、ワラントを買い付けたこともある。
(二) 訴外Dは、原告X3に対し、ワラントの商品性などについて充分な説明をしており、取引説明書も交付している。また、断定的な判断の提供は一切行なっていない。
(三) また、訴外Dは、原告X3がサッポロビールワラントを買い付けた後もワラントに関する連絡を取り、アドバイスも行い、また、被告は、三か月おきにワラントの時価評価を通知している。
9 原告X4について
(一) 原告X4は、本件ワラント購入当時、四七歳の分別盛りの新聞販売業を営む経済人であり、七〇〇〇万円から八〇〇〇万円の資産を有していたものであるほか、ワラント購入までの七年余りの間には多数の株式や外国投資信託等の取引を一〇〇万円ないし四〇〇万円規模で行っていたものであり、ワラント取引に関する適格性を欠いていたとは言えない。
(二) 訴外Fは、原告X4に対し、勧誘に際してワラントの商品性などについて充分な説明をし、取引説明書も送付している。また、断定的な判断の提供は一切行なっていない。
(三) また、訴外Fは、原告X4がフジクラワラント及び住友重機ワラントを買い付けた後もワラントに関する連絡を取り、アドバイスも行い、また、被告は、三か月おきにワラントの時価評価を通知している。
10 原告X5について
(一) 原告X5は、当時、五三歳であり、大手建設会社であるb建設株式会社の出張所長を務めるなどしており、また、昭和四七、四八年ころから証券取引を始め、特にサッポロビールワラントを購入するまでの二年余りの間には、二〇〇万円ないし九〇〇万円の規模の株式、転換社債及び投資信託などの取引を行なっていたものであり、積極的な投資家である。
(二) 訴外Dは、原告X5に対し、電話での勧誘に際し、ワラントの商品性などについて充分な説明をし、直後に取引説明書も送付している。また、断定的な判断の提供は一切行なっていない。
(三) また、訴外Dは、原告X5がサッポロビールワラントを買い付けた後もワラントに関する連絡を取り、アドバイスも行い、また、被告は、三か月おきにワラントの時価評価を通知している。
(四) 原告X5が訴外Dに対し、サッポロビールワラントの処分を依頼した事実はない。
四 争点
1 各原告に対するワラント取引勧誘に際し、被告の営業社員に違法な勧誘行為があったか否か。
2 損害額(過失相殺等)
第三争点に対する判断
一 総論
1 ワラント、特に外貨建てワラントの取引については、その価格の変動が株式に比較して複雑であり、発行会社の株価に単純に連動するものではなく、株価上昇への期待度等、測定が困難な要因によっても変動するものであることに加え、為替の影響も受けるものであり、株価に比較してもその予測は困難であること、ワラント取引は、権利行使期限があり、期間を経過すると投資金額全額を失う可能性があり、しかも、株価が権利行使価格を下回るときは権利行使をする余地がないことなどの特質があり、外貨建てワラントの取引によって利益を得るためには、相場予測についての理解、株式相場や為替についての知識や情報が必要であるということができる。
2 右のような外貨建てワラントの特質に鑑みれば、これを個人投資家に販売する証券会社としては、その取引をするに適する者(多額の投資をする能力があり、また、ワラントについて充分に理解する能力がある者)に限定して購入を勧誘する義務があり、また、購入を勧誘する顧客に対し、外貨建てワラントについての正確かつ充分な情報を提供する義務があるというべきである。
したがって、外貨建てワラントの取引をするに適する者に対してのみ購入を勧誘すること(適合性の原則)、購入を勧誘する顧客に対し、ワラントに関して充分に説明し、情報を提供すること(説明義務)に違反する勧誘をする場合は、その程度によって違法性を帯びることがあるというべきである。
また、断定的判断の提供による勧誘についても、証券取引法がこれを禁止している趣旨に鑑みれば、私法上も違法なものになることがあるというべきである。
なお、原告らは、被告に、ワラント購入後、ワラントの価格に関するタイムリーな情報提供をする義務があると主張するところ、各原告と被告間には証券取引に関する委託契約の存在が認められるから、右委託契約上の義務として、被告には顧客にできるだけ損失が生じないように配慮する義務が認められ、右義務に基づいて適切な助言をすべき一般的な義務があるということができ、購入後、購入したワラントに関する情報提供の程度によっては、右義務に違反する可能性もないではないというべきである。
二 原告X1関係
1 証拠(甲五一の三・六、五六、乙六、八、一一の一の一・二、一三の一の一ないし八、一四の一ないし九、B証人(採用しない部分を除く。)、原告X1本人(採用しない部分を除く。))及び弁論の全趣旨によれば、前記第二の一の各事実のほか、以下の事実を認めることができる。
(一) 日新製鋼ワラントは、三万一二二〇枚が売り出され、そのうち一万七二二〇枚を被告が売り出した。
(二) 訴外Bは、平成三年四月二二日、原告X1に対して日新製鋼ワラントの買付けを勧誘するためa建設の事務所を訪れた。
訴外Bは、応対した原告X1に対し、「国内新株引受権証券(国内ワラント)取引説明書」及び「外国新株引受権証券(外貨建ワラント)取引説明書」(乙六)を原告X1に交付し、ワラントについて一応の説明をしたが、原告X1が充分に理解できるようなものではなく、むしろ短期間で多額の利益を得ることができることを強調したため、原告X1は、ワラントが株式と同様に価格の変動があり、損を出すことや利益を得ることがあることは理解したが、それ以上に権利行使期限があることやワラントの価格変動の要因についての正確な理解を得るには至らなかった(原告X1は、その時点では、ワラントの価格が株価にある程度連動することは理解したが、株価の変動との相違や為替相場による変動などについて理解はできなかったし、一定期間内に権利を行使し、または売却しなければ買付代金がすべて回収できなくなることは念頭になかった。)。
そして、原告X1は、訴外Bの勧誘によって日新製鋼ワラントを買い付けることを決め、前記のとおり、●●●農業協同組合から二八〇〇万円の借入れ(返済予定を概ね三か月後とする手形貸付け)をした上、右ワラントを買い付け、数日後、前記取引説明書の末尾に添付されていた確認書(取引説明書の内容を確認し、自己の判断と責任においてワラントの取引を行う旨のもの、乙八)に署名押印し、被告担当者に交付した。
(三) 原告X1が日新製鋼ワラントを買い付けた後、被告から原告X1に取引内容を確認する旨の書面(乙一一の一の一)が送付され、原告X1は、右書面に添付された回答書(乙一一の一の二)を返送した。なお、右確認の書面には、日新製鋼ワラントの権利行使期限が記載されていた。
また、平成三年五月三一日時点を最初として、その後、三か月ごとに、被告から原告X1に対し、日新製鋼ワラントの時価評価の通知書(乙一三の一ないし八、一四の一ないし九)が送付され、同年八月三〇日時点以降の通知書には権利行使期限が記載されており、そのころ以降は、原告X1は、ワラントに権利行使期限があることや日新製鋼ワラントの時価評価額について認識理解していたが、買付け後、価格が一貫して下落したため、権利行使や売却の機会がないまま保有を継続せざるを得なかった。
以上のとおり認められる。
2 訴外Bは、平成三年四月二二日に原告X1に日新製鋼ワラントの買付けを勧誘した際の状況について、右認定の事実と異なる内容を証言をするが、前記のとおり原告X1は購入資金として三か月間程度の借入れをしている事実があり、短期間で利益を上げ、利ざやを得ようと考えていたものであり、ワラントについての正確な理解をしていなかったことが窺えること、その他反対趣旨の原告X1の供述に照らして採用することができない。
また、原告X1は、平成三年四月二二日にワラントの取引説明書(乙六)の交付を受けていないと供述するが、前記のとおり、同月二三日付けで取引説明書の末尾添付の確認書に署名押印している事実があり、原告X1の右供述部分を採用することはできない。
3 適合性の原則違反について
前記のとおり、原告X1は昭和四二年から会社を経営して建設業を営んでおり、当然、会社の資金繰り等にも関与してきたものであるほか、不動産を所有し、また日新製鋼ワラントを購入するまでに約二〇年間の株式取引の経験があったことからすれば、原告X1の学歴や日新製鋼ワラント購入が最初のワラント取引であったこと、購入当時の株式取引額等を考慮してもなお、日新製鋼ワラントの取引が原告X1に適合しないとまでは言えない。
4 目論見書交付義務違反について
証券取引法一五条二項は、有価証券の発行者、売出しをする者、引受人または証券会社は、有価証券を募集または売出しにより取得させまたは売り付ける場合には、あらかじめまたは同時に目論見書(同法一三条に規定するもの)を交付しなければならない旨を規定している。
そこで判断するに、前記のとおり、日新製鋼ワラントは、原告X1が購入した時点では発行前であったが、被告が原告X1に売り付けることは、右証券取引法にいう「募集」または「売出し」に該当するものではなく、被告には原告X1に対して目論見書を交付する義務が認められないから、義務違反の事実も認めることができない。
5 説明義務違反について
訴外Bが原告X1に対して日新製鋼ワラントの購入を勧誘した際の状況は前記認定のとおりであり、取引説明書は交付されたものの、訴外Bによるワラントについての説明は充分なものではなく、特に、ワラントに権利行使期限があることやそれを経過するとワラントが無価値になり、投資した金額(購入金額)全額が回収不能になることについて原告X1が理解できる程度の説明がなされておらず、被告が原告X1に対して負う説明義務の違反があったことを認めることができる。
なお、原告X1は、訴外Bが、勧誘に際し、原告X1に対して日新製鋼ワラントの価格のうちプレミアム部分を除いた理論価値(パリティ)を明らかにしなかったことも説明義務違反の内容として主張するが、被告が負うべき説明義務として右内容を含むとまでは言えず、また、ワラントの商品構造についても詳細な内容まで説明する義務があるとまでは言えず、これらの点について説明義務の違反を認めることはできない。
また、原告X1は、自己の判断で取引をする旨の確認書に署名押印し、また被告から取引説明書が交付されているが、それだけで説明義務が尽くされたということはできず、説明義務違反があったとする前記判断を覆すものではない。
6 断定的判断の提供について
訴外Bによる勧誘の際の状況は前記認定のとおりであり、訴外Bが原告X1に対し、一週間か一〇日で確実に儲かるという断定的な発言、勧誘をした事実を認めるに足りる証拠はない。
確かに、前記認定のとおり、原告X1は、日新製鋼ワラントを購入するため購入資金のほとんどを借入れで賄っており、しかも、その借入期間は三か月程度のものであったことからすれば、原告X1は、日新製鋼ワラントが数か月のうちに値上がりし、利益を得ることが可能であると考えていたことが窺えないではない(前記認定のとおり、原告X1はワラントが値下がりし、損失が生ずる可能性も認識していた。)が、右事実も訴外Bの断定的判断の提供による勧誘の事実を認めるに足りない。
7 事後の時価等情報開示義務違反について
原告X1が日新製鋼ワラントを購入した後、被告は、原告X1に対し、三か月に一度、右ワラントの時価評価の通知をしたことは前記のとおりであり、また、証拠(甲五三、五四、B証人)によれば、訴外Bは、平成四年五月ころ以降、少なくとも二度、原告X1に対して日新製鋼ワラントの価格に関する社内資料を渡した事実が認められる。
そこで判断するに、被告の原告X1に対するワラント価格に関する情報提供については、右のとおり三か月に一度は通知されていたことや、前記のとおり、当時は外貨建てワラントの気配値一覧が日本経済新聞等に掲載されていたことなどにも鑑みれば、それが違法であるほど不足していたものと認めることはできず、この点に関する原告X1の主張は採用できない。
8 以上によれば、訴外Bによる日新製鋼ワラントの購入の勧誘は、被告が負う説明義務に違反したものであり、その程度に鑑みて違法なものと認めるべきである。
そして、右違法行為による不法行為と以下に述べる原告X1に生じた損害との間には因果関係が認められる(被告は右因果関係を否定するが、この主張は採用できず、同原告以外の原告についても同様である。)
9 そこで、損害額について判断するに、原告X1は、日新製鋼ワラントの購入のため三三三六万一五四五円を出捐し、その全額を失ったものであるから右同額の損害が生じていることが認められる。
ところで、被告は、原告X1が、購入した日新製鋼ワラントの購入代金を回収できなかったことについては同原告の責任である旨を主張しており、これは過失相殺の主張とみるべきであるところ、前記認定の事実、特に、原告X1が長年会社を経営していた者であること、証券投資の経験があったこと、訴外Bの説明の程度や取引説明書の交付の事実などに鑑みれば、原告X1がワラント購入代金相当額の損害を被ったことについては、同原告にも、三〇〇〇万円を超える資金を投資する対象について調査検討をせず、訴外Bの説明を安易に信用したことについて相当の過失があるというべきであり、その割合は六割とするのが相当であり、前記損害額から右過失相殺をした後の金額は一三三四万四六一八円となる。
また、被告の不法行為による損害としての弁護士費用としては、一三三万円が相当である。
以上によれば、原告X1の請求は、一四六七万四六一八円及びこれに対する不法行為の日以後である平成五年六月三日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由がある。
三 原告X2関係
1 証拠(甲七二、七三、乙四〇、四一、四五の一ないし一八、C証人(採用しない部分を除く。)、原告X2本人)及び弁論の全趣旨によれば、前記第二の一の各事実のほか、以下の事実を認めることができる。
(一) 原告X2及び○○電装が平成二年一月三〇日に買い付けた青山商事株はその後増資がなされ、買い付けた株式の売却では損失が生じたが、増資による利益を加えると利益が生じた。
(二) 原告X2は、青山商事株を借入金で購入していたことから、右株式を売却して借入金を返済することを考え、訴外Cに売却する旨を告げ、○○電装が購入した株式は売却されたが、原告X2個人が購入した株式の売却に際し、訴外Cは右売却金でワラントを購入することを勧誘することとした。
平成二年六月一日、訴外Cは、電話で、原告X2に対し、日本ペイントワラントの購入を勧誘し、ワラントについて一応の説明をしたが、発行会社である日本ペイント株式会社の説明もなされたため、ワラントの価格変動の要因や外貨建てワラントであることによる特質等、ワラントに関する詳細な点については説明はなされず、この時点ではワラント取引に関する説明書の交付もなされなかった。原告X2は右説明により、ワラントに権利行使期限があることや株価に連動して価格が変動するものであること程度の理解はしたが、それ以上の理解をするには至らないまま、短期間の運用であれば大きな問題はないと考え、借入金の返済の必要もあって、短期間の運用とすることを前提に日本ペイントワラントの購入をした。
被告は、その後間もなく、原告X2に、確認書(取引説明書の内容を確認し、自己の判断と責任でワラント取引を行う旨の内容)用紙を送付し、原告X2は右確認書(乙四一)を作成し(実際に署名押印した者は明らかでないが、同原告の意思に基づいて作成されたものというべきである。)、そのころ被告に返送した。
日本ペイントワラントはその後、値下がりをし、価格の回復の見通しもよくなかったため、訴外Cは、同年七月一〇日、電話で、原告X2に対し、日本ペイントワラントを売却してベスト電器ワラントを購入することを勧誘した。この際には、訴外Cは、ワラントについての説明はしておらず、日本ペイントワラントを売却し、ベスト電器ワラントを購入するほうが有利であることの理由などが説明されたにとどまった。
(三) 被告は、原告X2がワラントを購入した後、当初は三か月ごとにワラントの時価評価について通知し、平成三年八月三〇日付けの通知書にはベスト電器ワラントの権利行使期限が記載されていた。また、右通知書以後は、毎月、時価評価の通知書が送付された。
(四) 原告X2が購入したベスト電器ワラントは概ね値下がりし(一旦、値を戻した際、原告X2は売却することを検討したが、結局、その時点で売却しても損失を生ずるため、売却をしなかった。)、権利行使期限を経過した。
以上のとおり認められる。
2 訴外Cは、平成二年六月一〇日に電話で日本ペイントワラントの買付けを勧誘した際及び同年七月一〇日に電話でベスト電器ワラントの買付けを勧誘した際の状況について、右認定の事実と異なる内容を証言をするが、反対趣旨の原告X2の供述に照らして採用することができない。
3 適合性の原則違反について
前記のとおり、原告X2は長年、小規模ではあるが会社を経営してきたものであり、その資産内容は明らかではないものの、金融機関に対する信用や資金調達能力も相当程度備えていたものであり、日本ペイントワラントの取引までワラント取引の経験がなかったことやそれまでの証券取引の経験が多くなかったことを考慮しても、原告X2にワラント取引について適合性がなかったとは言えない。
4 説明義務違反
原告X2が二度にわたりワラントを購入した際の訴外Cの原告X2に対する勧誘状況は前記認定のとおりであり、いずれも電話でなされており、平成二年六月一日に日本ペイントワラントの購入を勧誘した際には、ワラントについて一応の説明がなされているが、充分なものとは言えず、一〇〇〇万円を超える投資をするにあたっての説明としては不充分であると言わざるを得ず、また、同年七月一〇日にベスト電器ワラントの購入を勧誘した際にもワラントに関する説明がほとんどなされておらず、いずれも説明義務を尽くしたとは言えないというべきである。また、少なくとも、日本ペイントワラントの購入勧誘の時点では、取引説明書も交付されていないことなども考慮すれば、訴外Cには各ワラントの購入勧誘の際、いずれも説明義務の違反があったと言うべきである(日本ペイントワラント購入勧誘の際に充分な説明がなされていれば、その後の勧誘に際してはワラント一般についての説明は不要であり、ベスト電器ワラント購入勧誘の際の説明義務は軽減されるというべきであるが、日本ペイントワラント購入勧誘の際の説明が不充分であり、ベスト電器ワラント購入の際にも説明義務があるというべきである。)。
5 断定的判断の提供について
訴外Cによる勧誘の際の状況は前記認定のとおりであるところ、訴外Cが原告X2に対し、違法性のある断定的判断を提供して勧誘した事実を認めるに足りる証拠はない。
6 事後の時価等情報開示義務違反について
原告X2が日本ペイントワラントを購入後、売却するまでの期間は一か月余りであり、その間、訴外Cに、不作為を含めて情報提供に関する違法な行為を認めることはできない。また、ベスト電器ワラント購入後、被告は、原告X2に対し、三か月ないし一か月に一度、右ワラントの時価評価の通知をしたことは前記のとおりであり、前記原告X1に関して述べたと同様、被告の原告X2に対するワラント価格に関する情報提供については、それが違法であるほど不足していたものと認めることはできず、この点に関する原告X2の主張は採用できない。
7 以上によれば、訴外Cによる日本ペイントワラント及びベスト電器ワラントの購入の勧誘は、被告が負う説明義務に違反したものであり、その程度に鑑みて違法なものである。
8 損害額について判断するに、原告X2は、日本ペイントワラントを購入し、その後売却したことにより一七五万七一七八円の損失を被ったほか、ベスト電器ワラントの購入のため八六三万八三五〇円を出捐し、その全額を失ったものであるから右合計一〇三九万五五二八円の損害が生じていることが認められる。
そこで、原告X1について述べたと同様、過失相殺について判断するに、前記認定の事実、特に、原告X2が長年会社を経営してきた者であり、相応の注意をすれば外貨建てワラントの危険性の判断をするに足りる程度の理解はできたと思われること、訴外Cもワラントについて一応の説明をしていることなどに鑑みれば、原告X2がワラント購入代金及び差損相当額の損害を被ったことについては、同原告も、多額の投資をする対象について調査検討をせず、訴外Cの説明を安易に信用したことについて相当の過失があるというべきであり、その割合は五割とするのが相当であり、前記損害額から右過失相殺をした後の金額は五一九万七七六四円となる。
また、被告の不法行為による損害としての弁護士費用としては、五一万円が相当である。
9 以上によれば、原告X2の請求は、五七〇万七七六四円及びこれに対する不法行為の日以後である平成五年六月三日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由がある。
四 原告X3関係
1 証拠(甲五九、乙三の一、一六、一七の三、二〇の一ないし八、D証人(採用しない部分を除く。)、原告X3本人(採用しない部分を除く。))及び弁論の全趣旨によれば、前記第二の一の各事実のほか、以下の事実を認めることができる。
(一) 昭和六一年四月以降の原告X3の被告広島支店での取引は、株式、国債、転換社債など多数回に及んでおり、右各取引は、多忙な原告X3に代わり妻Eが実質的に行なっており、原告X3本人は右各取引の詳細については把握しておらず、昭和六一年に第二回福山通運のワラントを約五〇〇万円で買い付け、約四か月後、二一万余円の利益を出して売り付けているが、原告X3はワラントを購入したこと自体、認識を持っていなかった。
(二) 平成元年一一月三〇日、訴外Dは原告X3方を訪れ、原告X3の妻Eに対してサッポロビールの転換社債の買付けを勧誘し、原告X3は前記のとおり右転換社債を買い付けた。
(三) 訴外Dは、平成二年一〇月二五日、サッポロビールワラントの買付けを勧誘するため原告X3方を訪れた。
訴外Dは、応対した原告X3本人に対し、ワラントについて一応の説明をし、一定の期限までに権利を行使するか売却する必要があること、その期限を経過するとワラントが無価値になるが実際にはそういう事態になることはあり得ないこと、ワラントは株式とは異なるものであるが、その価格は株価と連動しており、株式取引より多額の利益を得ることができる可能性があること、サッポロビールワラントはビール会社のものであるため、翌平成三年の夏には株価が上昇し、ワラントもそれに連動して値上がりする可能性が大きいことなどを説明し、当時、サッポロビールの転換社債で約四〇〇万円程度の損が生じているが、サッポロビールワラントを購入すればその損失を取り戻すことができることなどを説明して勧誘した。
原告X3は、訴外Dの右説明を聞き、ワラントについて、権利行使期限があること、その期限を徒過すると無価値になること、その価格は株価に連動して上下すること、株式取引と比較して同じ投資金額でより大きな利益を上げることができることなど、基本的なことは理解した。もっとも、ワラントの価格が理論的価値(パリティ)とプレミアムからなっていることや外貨建てワラントの価格は為替相場によっても変動すること、その他多くの要因で価格が変動し、価格変動が株価に比較しても複雑であり、予測がより困難であることなどについては理解するに至らなかった。
原告X3は、訴外Dの右勧誘によりサッポロビールワラントを買い付け、購入代金は保有していた有価証券類の売却代金で賄うこととした。また、訴外Dは、同日、「国内新株引受権証券(国内ワラント)取引説明書」及び「外国新株引受権証券(外貨建ワラント)取引説明書」(乙六)を原告X3に交付し、原告X3は、その末尾に添付されていた確認書(取引説明書の内容を確認し、自己の判断と責任においてワラントの取引を行う旨のもの、乙一六)に署名押印し、訴外Dに交付した。
また、原告X3に対しては、サッポロビールワラント購入後の平成二年一一月七日ころ、被告からサッポロビールワラントの預り証(乙一七の三)が交付されたが、右預り証には権利行使期限が明記され、期限経過後はワラントが無価値になる旨の記載がなされていた。
(四) 被告では、平成二年二月以降、顧客が購入したワラントの時価評価について通知するシステムを採用しており、原告X3に対しても、少なくとも平成三年五月以降(平成二年一一月及び平成三年二月にも通知された可能性があるが、明らかでない。)、三か月ごとにサッポロビールワラントの時価評価が通知された。そして、平成三年八月三〇日付け以降の通知書にはサッポロビールワラントの権利行使期限が明記されていた。
(五) 訴外Dは平成三年五月に被告広島支店から転勤し、G課長が後任担当者となった。
(六) サッポロビールワラントは、前記のとおり値下がりを続けたため、原告X3は権利行使または売却の機会がないまま保有を続け、権利行使期限を徒過した。
以上のとおり認められる。
2 訴外Dは、平成二年一〇月二五日に原告X3にサッポロビールワラントの買付けを勧誘した際の状況について、右認定の事実と異なる内容を証言をするが、反対趣旨の原告X3の供述に照らして採用することができない。
また、原告X3は、右同日、ワラントの取引説明書(乙六)の交付を受けていないと供述し、証拠(甲六九の一・二、原告X3本人)によれば、被告は、平成二年一二月に、原告X3に対してワラントの取引説明書を送付している事実が認められるが、原告X3は、サッポロビールワラントを購入した平成二年一〇月二五日付けで取引説明書の末尾添付の確認書に署名押印していること、平成三年一二月に送付された取引説明書は平成二年一一月に改訂されたものであり(甲六九の二の末尾に発行日と思われる記載がある。)、取引説明書の改訂により、当時ワラントを購入していた顧客に送付されたものであるとみるのが合理的であることなどからすれば、前記の原告X3の供述部分を採用することはできない。
3 適合性の原則違反について
前記のとおり、原告X3は、大学専門部を卒業し、また、長年堅実な企業に勤務し、取締役まで務めたものであること、サッポロビールワラントの取引までに、株式やその他の有価証券の取引を多数行なっており、昭和六一年以降をみても、一回の投資金額は一〇〇万円単位の金額で、多いものは六〇〇万円に至る取引であること、本件サッポロビールワラントの取引金額は右と同程度であることなどからすれば、原告X3が一貫して営業畑の仕事に携わってきたこと、ワラントの取引が実質的に初めてであることを考慮しても適合性がないとは言えない。
なお、ワラント取引について、そもそも個人投資家が適合性を有しないとまでは言えない。
4 説明義務違反について
訴外Dが原告X3に対してサッポロビールワラントの購入を勧誘した際の状況は前記認定のとおりであり、ワラントに権利行使期限があること、右期限までに権利行使または売却をしないと無価値になること、ワラントは株式とは異なるが、その価格は株価に連動することなどを説明し、原告X3もその限度では理解したものであり、一応の説明がなされていることが認められ、また、同日、取引説明書も交付されている。しかしながら、それ以上に、外貨建てであることによる特質(為替相場による影響を受けることなど)やワラントの価格の変動要因など、数百万円を投資するために必要と思われる詳しい説明については、少なくとも、原告X3が理解できる程度には説明がなされておらず、説明義務を尽くしていると認めることはできない。
なお、原告X3は、自己の判断で取引をする旨の確認書に署名押印し、また被告から取引説明書が交付されているが、それだけで説明義務が尽くされたということはできず、説明義務が尽くされていないとする前記判断を覆すものではない。
5 断定的判断の提供について
訴外Dによる勧誘の際の状況は前記認定のとおりであり、訴外Dは、原告X3に対し、権利行使期限が経過すると無価値になることは告げているが、それが実際上はあり得ないことである旨を告げたほか、ワラントを購入すれば、従前、原告X3が購入した転換社債の取引によって生じていた約四〇〇万円の損失分程度の利益が確実に得られるかのような勧誘をしており、これは禁止される断定的な判断の提供による勧誘と認められる。
6 事後の時価等情報開示義務違反について
原告X3がサッポロビールワラントを購入した後、被告は、原告X3に対し、遅くとも平成三年五月以降、三か月に一度、右ワラントの時価評価の通知をしたことは前記のとおりであり、前記原告X1に関して述べたと同様、被告の原告X3に対するワラント価格に関する情報提供については、それが違法であるほど不足していたものと認めることはできず、この点に関する原告X3の主張は採用できない。
7 以上によれば、訴外Dによるサッポロビールワラントの購入の勧誘は、被告が負う説明義務に違反し、かつ、断定的判断の提供によってなされたものであり、その程度に鑑みて違法なものと認めるべきである。
8 そこで、損害額について判断するに、原告X3は、サッポロビールワラント購入のため六三六万五七〇〇円を出捐し、その全額を失ったものであるから右同額の損害が生じていることが認められる。しかしながら、前記のとおり、原告X3は、昭和六一年に第二回福山通運外貨建てワラントの取引をして二一万六二六四円の利益を得ており、右福山通運ワラントの取引とサッポロビールワラントの取引は原告X3と被告との間の一連の証券取引に関する委託契約に基づいてなされたものであり、損失についてのみ損害賠償請求を認め、利益について考慮しないことは不合理であること、その他損害の公平な負担の観点からも、右福山通運ワラントによる利益は前記のサッポロビールワラントの取引による損害額から控除すべきである。そして、右控除後の金額は六一四万九四三六円となる。
そこで、原告X1について述べたと同様、過失相殺について判断するに、前記認定の事実、特に、原告X3が長年堅実な会社に勤務し、一定期間は役員を務めた者であること、本件のワラント取引までの間に証券取引の経験があったこと、訴外Cは、説明義務を尽くしたとまでは言えないがワラントについて基本的な構造や重要な点について説明しており、原告X3がそれらについて理解しなかったのは利益の追及に目を奪われ、理解できなかった説明内容について確認をしなかったことにも理由があることなどに鑑みれば、原告X3がワラント購入代金相当額の損害を被ったことについては、同原告にも相当の過失があるというべきであり、その割合は六割とするのが相当であり、前記損害額(六一四万九四三六円)から右過失相殺をした後の金額は二四五万九七七四円(円未満切捨て)となる。
また、被告の不法行為による損害としての弁護士費用としては、二四万円が相当である。
9 以上によれば、原告X3の請求は、二六九万九七七四円及びこれに対する不法行為の日以後である平成五年六月三日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由がある。
五 原告X4関係
1 証拠(甲七一、乙三〇、三二、三三の一ないし一三、F証人(採用しない部分を除く。)、原告X4本人)及び弁論の全趣旨によれば、前記第二の一の各事実のほか、以下の事実を認めることができる。
(一) 前記のとおり、原告X4は、昭和五八年一二月から被告との取引を始めたが、取引する商品については被告の担当者(昭和六三年一一月以降は訴外F)の勧めるまま、内容について充分な検討や理解をすることなく買付け及び売却をしており、特に、外国の投資信託等についてはその内容を把握していなかったが、取引によって利益を得ることも多く、多額の損失が生ずることもなかったため、担当者に任せている状況であった。
平成三年当時の原告X4の資産は、現金及び預貯金合計が七〇〇〇万円ないし八〇〇〇万円程度であり、その他に不動産を保有していた。
(二) 訴外Fは、平成三年二月四日、原告X4方に電話をし、原告X4に対してフジクラワラントの購入を勧誘したが、電話で、かつ、短時間の勧誘にとどまり、ワラントについての特質や危険性などについては充分な説明はなされず、原告X4は、ワラントがそれまで取引をしていた外国の投資信託等の商品と異なるものであることの認識さえなく、勧誘された商品が新株引受権証券であることやワラントに権利行使期限があることも認識しなかった。
原告X4は、当時、経営する新聞販売店兼自宅の立退きが予定されており、移転のために多額の資金が必要な状況であり、保有する資産でこれを賄う予定であったが、ワラント取引によって投資した資金がすべて失われることがあることを想定しなかったため、訴外Fに勧められるまま、買い付ける金融商品がどういうものであるかについても知らない状態でフジクラワラントを購入する旨を返答した。
なお、右取引時までには、被告から原告X4に対してワラントの取引説明書の交付はなされておらず、取引成立後、被告から送付されたに過ぎない。また、取引成立後、原告X4の妻が、取引説明書の内容を確認し、自己の判断と責任でワラント取引を行う旨の確認書(乙三〇)に原告X4の名前を記載し、押印をした上、被告に返送した。
原告X4は、その数日後の平成三年二月一四日に神鋼電機ワラントを買い付けたが、同月二〇日に売却して四三万余円の利益を得たため、ワラントの取引は利益が生ずるものであると安易に考え、前記のとおりその後も住友重機ワラントの買付け、フジクラワラントの売却と再度の買付けを行った(右フジクラワラントの売却によって二万余円の損失が生じたが、小幅なものであったため、原告X4は、ワラント自体が無価値になる危険性について思い至ることはなかった。)。また、平成三年二月一四日以降のワラント取引に際しては、訴外Fは、原告X4に対してワラントについての格別の説明はしていない。
(三) 被告からは、平成三年五月三一日付けで、原告X4に対し、購入したワラントの時価評価の通知がなされ、その時点では、フジクラワラントについては一一四万余円、住友重機ワラントについても二万円弱程度値下がりしていた。また、同年八月三〇日付けの通知書には、両ワラントの権利行使期限の記載がなされていたが、原告X4は、そのころ、購入して保有しているワラントの残高、時価評価及び権利行使期限等を確認した旨を被告に回答しており、遅くともそのころまでにはワラントに権利行使期限があることなどについて認識していた。被告は、その後も三か月ごとにワラントの時価評価を原告X4に通知した。
(四) フジクラワラント及び住友重機ワラントは、その後も値下がりを続けたため、原告X4は権利行使または売却の機会がないまま保有を続け、権利行使期限を徒過した。
以上のとおり認められる。
2 訴外Fは、平成三年二月四日に電話で原告X4にフジクラワラントの買付けを勧誘した際の状況について、右認定の事実と異なる内容を証言をするが、反対趣旨の原告X4の供述に照らして採用することができない。
3 適合性の原則違反について
前記のとおり、原告X4は、ワラントを購入するまでに二〇年間、新聞販売店を経営していたものであること、一〇年近くの間、被告を通じて株式や外国投資信託等の証券取引をしていたこと、ワラント購入当時、七〇〇〇万円以上の資産を有していたこと、原告X4が購入したフジクラワラントの取引金額はフジクラワラントが三〇〇万円程度、住友重機ワラントが三〇万余円程度(その他神鋼電機のワラントが四〇〇万円程度)であることなどからすれば、当時、新聞販売店の移転が予定されており、そのための経費が必要になる見込みがあったことなどの事情に鑑みても、原告X4にワラント取引について適合性がないとは言えない。
4 説明義務違反について
原告X4のワラント取引は前記のとおり複数回にわたっているが、最初のフジクラワラントの購入を除くその余のワラント取引に際しては、訴外Fは、原告X4に対してワラントについて格別の説明をしていないことは前記のとおりである。
訴外Fが、原告X4に対して最初にフジクラワラントの購入を勧誘した際の状況は前記認定のとおりであり、極めて短時間でワラント購入の勧誘がなされており、ワラントに関する説明はほとんどなされていないことが認められ、原告X4は、その時点では、ワラントがどういうものであるかのほか、ワラントの特質や構造、ワラントに権利行使期限があること、ワラントの価格の変動要因等についても何ら理解できるだけの説明はなされず、また、原告X4がワラントの購入を決めた時点では取引説明書も交付されていないことなどを考慮すれば、訴外Fには説明義務の違反があったと言うべきである。
なお、原告X4名義(同原告の妻が作成したものであるが、同原告の意を受けて作成したものというべきである。)で、自己の判断で取引をする旨の確認書が作成されているが、右事実は説明義務の違反があるとする前記判断を覆すものではない。
5 断定的判断の提供について
訴外Fによる勧誘の際の状況は前記認定のとおりであるところ、訴外Fが原告X4に対し、違法性のある断定的判断を提供して勧誘した事実を認めるに足りる証拠はない。
6 事後の時価等情報開示義務違反について
原告X4がフジクラワラント及び住友重機ワラントを購入した後、被告は、原告X4に対し、平成三年五月以降、三か月に一度、右ワラントの時価評価の通知をしたことは前記のとおりであり、前記原告X1に関して述べたと同様、被告の原告X4に対するワラント価格に関する情報提供については、それが違法であるほど不足していたものと認めることはできず、この点に関する原告X4の主張は採用できない。
7 以上によれば、訴外Fによるフジクラワラント及び住友重機ワラントの購入の勧誘は、被告が負う説明義務に違反したものであり、その程度に鑑みて違法なものである。
8 そこで、損害額について判断するに、原告X4は、権利行使期限を徒過したフジクラワラント及び住友重機ワラントのほかにも、一度購入して売却したフジクラワラント及び神鋼電機外貨建てワラントの取引を行っており、前記原告X4について述べたと同様、これらは被告との間の一連の委託契約に基づくものであるから、損害額の算定に際しては、これらの取引による損益も算入するのが相当である。したがって、権利行使期限を徒過したフジクラワラント(出捐額三一二万四一二五円)及び住友重機ワラント(出捐額三二万七八一〇円)の出捐額合計三四五万一九三五円から前記神鋼電機外貨建てワラントの取引による利益四三万七〇七八円を控除し、さらに購入し売却したフジクラワラントの取引による損失二万〇〇八六円を加えた金額、三〇三万四九四三円が生じた損害というべきである。
そこで、過失相殺について判断するに、前記認定の事実、特に、原告X4が長年新聞販売店を経営していた者であること、本件のワラント取引までの間に外国債券等の証券取引の経験があること(原告X4がこれらの商品内容について充分に認識しなかったことは、利益についてのみ関心を持ち、投資対象についての検討をしなかった点で同原告にも責任があると言わざるを得ない。)、他方、原告X4は、証券取引の経験はあったが、その取引内容について充分な理解や把握をしておらず、この点は訴外Fもある程度は認識していたと思われること、訴外Fは購入を勧誘するワラントについてほとんど説明をしていないこと、取引説明書も取引後に送付されていることなどに鑑みれば、原告X4がワラント購入代金相当額の損害を被ったことについての同原告の過失割合は三割とするのが相当であり、前記損害額(三〇三万四九四三円)から右過失相殺をした後の金額は二一二万四四六〇円(円未満切捨て)となる。
また、被告の不法行為による損害としての弁護士費用としては、二一万円が相当である。
9 以上によれば、原告X4の請求は、二三三万四四六〇円及びこれに対する不法行為の日以後である平成五年六月三日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由がある。
六 原告X5関係
1 証拠(甲六〇、六三の一・二、六六ないし六八、乙五の一・二、二三、二四の一・二、二七の一ないし八、D証人(採用しない部分を除く。)、原告X5本人)及び弁論の全趣旨によれば、前記第二の一の各事実のほか、以下の事実を認めることができる。
(一) 原告X5は、平成元年七月、土地の売却で多額の金員を得たことから、右売却金の一部を株式などの有価証券で運用しようと考え、前記のとおり株式会社や転換社債などを購入し、以後、訴外Dの勧誘を受けて株式等の売買をするようになった。
(二) 原告X5は、平成二年九月から松江に居住し、勤務していたが、訴外Dとは電話で連絡をしており、同年一〇月八日には前記のとおり関西電力の転換社債を買い付けた。
同年一〇月一六日に右転換社債を売り付けた後の同月二六日、訴外Dは、原告X5に電話をし、サッポロビールワラントの購入を勧誘した。訴外Dは、右電話で、ワラントについて説明をし、ワラントの価格は株価に連動すること、しかし株価に比べて値動きが大きく、株式取引と比べて多額の利益を上げることができること、他方、リスクも大きいハイリスク・ハイリターンの商品であることなどの説明をし、また、一定の権利行使期間があることも告げた。
原告X5は、その説明を聞いてワラントには危険性があることを認識し、ワラントを購入することに難色を示したが、訴外Dが、短期間で売却すれば問題はなく、絶対に迷惑をかけない、損はさせない、任せてほしいと告げて強く勧誘したため、原告X5は、訴外Dの説明ではワラントについて充分な理解を得ることはできなかったが、サッポロビールワラントの購入を決め、二九日に買い付けられた。
(三) 被告では、原告X5がサッポロビールワラントを買い付けたことから、取引説明書の内容を確認し、自己の判断と責任においてワラントの取引を行う旨の確認書用紙(日付欄を鉛筆で抹消したもの)を原告X5に送付し、同原告X5は、そのころ右確認書に署名押印して返送した。また、被告は、同年一二月ころ、「国内新株引受権証券(国内ワラント)取引説明書」及び「外国新株引受権証券(外貨建ワラント)取引説明書」を原告X5に送付し、また、平成三年一二月にも改訂された取引説明書を送付した。
(四) 被告は、原告X5に対し、平成二年一一月以降、三か月ごとにサッポロビールワラントの時価評価を通知したが、そのうち平成三年八月三〇日付け以降の通知書にはサッポロビールワラントの権利行使期限が明記されていた。
また、被告は、平成三年三月二九日付けで、原告X5に対し、口座明細を記した書面(乙二四の一)を送付したが、右書面にはサッポロビールワラントの権利行使期限の記載がなされていた。
(五) 訴外Dは平成三年五月に被告広島支店から転勤し、G課長が後任担当者となった。
(六) サッポロビールワラントは、前記のとおり値下がりを続けたため、原告X5は権利行使または売却の機会がないまま保有を続け、権利行使期限を徒過した。
以上のとおり認められる。
2 訴外Dは、平成二年一〇月二六日に電話で原告X5にサッポロビールワラントの買付けを勧誘した際の状況について、右認定の事実と異なる内容の証言をするが、反対趣旨の原告X5の供述に照らして採用することができない。
3 適合性の原則違反について
前記のとおり、原告X5は、長年建設会社に勤務し、小規模ながらも出張所長などを歴任したものであること、サッポロビールワラントの取引までに長年株式を保有し、また、平成元年には土地の売却によって一七〇〇万円余りの金員を取得し、そのうち八〇〇万円程度の資金を有価証券で運用していたものであること、本件サッポロビールワラントの取引金額は四六〇万余円程度のものであることなどからすれば、原告X5が主に技術関係の仕事に携わってきたこと、ワラントの取引が初めてであることを考慮しても、ワラント取引について適合性がないとは言えない。
4 説明義務違反について
訴外Dが原告X5に対してサッポロビールワラントの購入を勧誘した際の状況は前記認定のとおりであり、ワラントに権利行使期限があること、ワラントは株式とは値動きが異なるものであり、値下がりする場合もその度合いが大きく危険性の高いものであることなどは説明されているが、それ以上に、外貨建てであることによる特質やワラントの価格の変動要因、サッポロビールワラントの当時の状況(サッポロビールの株価が権利行使価格を下回っていること、権利行使期間の残存期間及びそのための注意点)などについては説明がなされておらず、また、原告X5がワラントの購入を決めた時点では取引説明書も交付されていないことなどを考慮すれば、訴外Dには説明義務の違反があったと言うべきである。
なお、原告X5は、自己の判断で取引をする旨の確認書に署名押印しているが、右事実は説明義務の違反があるとする前記判断を覆すものではない。
5 断定的判断の提供について
訴外Dによる勧誘の際の状況は前記認定のとおりであり、訴外Dは、原告X5に対し、短期間で売却すれば問題はなく、絶対に迷惑をかけない、損はさせない、任せてほしいと告げた事実はあるが、原告X5は、ワラントが危険性の高いものであることを認識していたもので、訴外Dの右発言を全面的に信じてワラントを購入したものではないから、訴外Dの右発言をもって、少なくとも違法性のある断定的判断とまでは認めることができない。
6 事後の時価等情報開示義務違反について
原告X5がサッポロビールワラントを購入した後、被告は、原告X5に対し、平成二年一一月以降、三か月に一度、右ワラントの時価評価の通知をしたことは前記のとおりであり、前記原告X1に関して述べたと同様、被告の原告X5に対するワラント価格に関する情報提供については、それが違法であるほど不足していたものと認めることはできず、この点に関する原告X5の主張は採用できない。
7 仕切拒否について
原告X5は、平成二年一二月に仕切り(ワラントの処分)を訴外Dに依頼したと主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。また、それ以後、原告X5は、訴外Dがワラントの処分をしなかったことについて問題にした形跡はなく、仮に、訴外Dが原告X5からの処分要請があったにもかかわらずこれを実行しなかったとしても、その後同原告によって追認がなされたというべきであり、違法性のある仕切拒否の事実を認めることはできない。
8 以上によれば、訴外Dによるサッポロビールワラントの購入の勧誘は、被告が負う説明義務に違反したものであり、その程度に鑑みて違法なものである。
9 そこで、損害額について判断するに、原告X5は、サッポロビールワラントの購入のために四六二万九六〇〇円を出捐し、その全額を失ったものであるから右同額の損害が生じていることが認められる。
過失相殺については、前記認定の事実、特に、原告X5は長年会社に勤務し、小規模ながらも出張所長を務めるなどした社会人であること、訴外Dは権利行使期限などワラントについてある程度の説明をし、原告X5もワラント取引が危険性を伴うものであることを認識し、その上で、投資をしたものであること、他方、原告X5はそれまで証券取引の経験が少なく、証券取引について充分な理解をしていたとは言えないことなどに鑑みれば、原告X5がワラント購入代金相当額の損害を被ったことについては、同原告にも過失があり、その割合は五割とするのが相当であり、前記損害額から右過失相殺をした後の金額は二三一万四八〇〇円となる。
また、被告の不法行為による損害としての弁護士費用としては、二三万円が相当である。
10 以上によれば、原告X5の請求は、二五四万四八〇〇円及びこれに対する不法行為の日以後である平成五年六月三日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由がある。
第四結論
以上のとおり、原告らの請求は、それぞれ主文掲記の限度で理由があるから認容し、その余は棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法六一条、六四条、六五条一項を、仮執行宣言につき同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 金村敏彦)
代理人目録
原告ら訴訟代理人弁護士 田中千秋 小田清和 二國則昭 武井康年 中田憲悟 小野裕伸 足立修一 久笠信雄 飯岡久美 坂本彰男 板根富規 松永克彦 今井光 三浦和一 池上忍 山田延廣 坂本宏一 山本一志 津村健太郎 我妻正規 山口格之 笹木和義 大澤久志
以上